キングダム第880話「戦友」は、前回まで積み上げられてきた絶望的な包囲戦の中で、一筋の希望が差し込む回となりました。
しかし、その希望も決して「逆転」ではありません。
今回描かれたのは、誰もが勝てないと理解した上で、それでも仲間を見捨てないという戦友たちの覚悟でした。
惇兄弟・角、最後まで弟を想う
冒頭は惇兄弟の兄・角の最期から始まります。
地に伏し、自らの名前を呼び続ける弟・告の声を聞きながら、幼い頃の記憶を思い返し、そのまま静かに命を落とします。
派手な最期ではありませんでしたが、この兄弟らしい締めくくりだったと思います。
キングダムは武将だけでなく、こうした脇役にも人生を与える作品ですが、今回もその積み重ねが丁寧に描かれていました。
飛信隊、本当にあと一歩で壊滅
信は全身傷だらけになりながらも戦い続けています。
しかし、敵を倒しても倒しても、その周囲には新しい趙兵が次々と押し寄せてきます。
完全に包囲され、味方は減り続け、体力も限界。
まさに「詰み」の状態でした。
一方の貂も絶望的な状況です。
護衛兵たちは自ら盾となって時間を稼ぎますが、一人また一人と倒されていきます。
このまま軍師・河了貂までも討たれるかと思われた、その瞬間でした。
羌瘣と礼、最後の合流
趙兵の槍を止めたのは、羌瘣と羌礼。
しかし、その姿を見た瞬間に違和感があります。
二人しかいない。
つまり、他の羌瘣隊は二人を送り出すために戦場へ残り、その命を散らしたということです。
この描写は短いながら非常に重いものでした。
羌礼も自ら口にします。
「助けに来たわけじゃない。」
「最後は隊長や昂のところにいたいから無理して来ただけ。」
つまり二人とも、この戦いで生き残れるとは思っていません。
最後を信たちと迎えたい。
それだけで命懸けで包囲を突破してきたのです。
信が礼を止めた理由
礼は昂を探しに向かおうとします。
しかし信はそれを止めます。
「お前の力はまだここに必要だ。」
「ここの火が消えなければ、まだ他の火は頑張れる。」
この言葉は今回のタイトルにも繋がる重要な台詞でした。
飛信隊という軍は、誰か一人ではありません。
それぞれが火となり、お互いを支えている軍です。
だからこそ、自分だけが助かる行動ではなく、一番火力の高い礼は最後までここで戦え。
そう命じたのでしょう。
絶望の中に現れた楽華軍
そして戦場に新たな軍勢が現れます。
現れたのは蒙恬率いる楽華軍。
ここは正直、鳥肌が立ちました。
ここまで全力疾走してきたのでしょう。
全員が肩で息をしながら、それでも間に合ったことに安堵する暇もなく、飛信隊が壊滅寸前である現実を目の当たりにします。
しかし楽華も余裕がある軍ではありません。
むしろこちらも寡兵です。
愛閃の判断は正しい
愛閃は冷静です。
「あの包囲には挑めません。」
「飛び込めば我々も全滅します。」
これは軍人として極めて正しい判断です。
感情ではなく戦力差を見ています。
だからこそ、その後の蒙恬の返答が際立ちます。
「でも行くよ。」
この一言だけでした。
李牧さんも琉安も即座に看破
一方、李牧さんは楽華軍を見てすぐ理解します。
「我らと同じ手を使ったのでしょう。」
つまり雷伯軍へ全軍を向かわせたように見せかけ、一部を別動隊として飛信隊救援へ向かわせていたということです。
これをほぼ同時に琉安も見抜きます。
「まんまとやり返された。」
この辺りはさすが知将同士です。
ただし琉安は同時に勝利も確信しています。
「でも、それは寡兵だから許された。」
「入れば飛信隊と一緒に死ぬだけ。」
この分析も現時点では極めて合理的です。
蒙恬、さらに軍を分ける
ここで蒙恬はさらに驚く指示を出します。
愛閃は右。
陸仙は左。
つまり少ない兵をさらに三方向へ分散させます。
当然、陸仙は反対します。
「ただでさえ少ない兵をさらに分けるのですか。」
誰が見ても無茶です。
しかし蒙恬の狙いは違いました。
飛信隊を救出することではありません。
包囲に亀裂を作ること。
それだけです。
包囲網に穴が開けば、飛信隊ならそこから自力で脱出できる。
だから一か所を厚く攻めるより、多方向から楔を打ち込み、包囲そのものを崩す。
蒙恬らしい、非常に合理的な発想でした。
「戦友だから」
愛閃は最後に尋ねます。
「なぜそこまでして李信を。」
蒙恬は笑いながら答えます。
「戦友だから。」
さらに、
「逆なら信も同じことをする。」
この一言で十分でした。
長年積み重ねてきた信・王賁・蒙恬。
若き三将として競い合い、助け合ってきた歴史が、この短い台詞だけで全て伝わります。
だから愛閃も陸仙も迷いを捨てます。
それじゃ行け!
その号令とともに楽華軍は三方向へ突撃していきました。
【考察①】実は李牧さん側も、かなり危険な賭けをしている
今回の第880話は、飛信隊が絶体絶命という描写が続いています。
しかし、少し戦場全体を俯瞰してみると、実は危険なのは飛信隊だけではありません。
李牧さん側も、かなり大胆な戦力運用をしています。
というのも、現在の李牧軍は飛信隊を確実に討ち取るため、元々の戦場から兵力と指揮官を大量に引き抜き、その戦力を飛信隊包囲へ集中させています。
言い換えれば、それだけ元の前線は手薄になっているということです。
現状でも雷伯軍をはじめとする各部隊は、後方から押し寄せてくる秦軍本隊を押さえ続けなければなりません。
しかも、その秦軍にはヨコヨコ軍、洛亜完軍、後続の飛信隊残存部隊が控えています。
さらに隣接戦線には山の民軍や録嗚未軍まで存在しており、どこか一つでも突破口が開けば、一気に李牧軍の背後へ回り込まれる危険性があります。
つまり、現在の李牧軍は「飛信隊を討ち取る」という一点突破に全振りしている状態です。
もちろん、蒙恬ほどの将軍が、そのような状況を理解していないはずがありません。
楽華軍だけで突撃したように描かれていますが、実際には友軍や後続部隊へ救援要請や戦況報告を送っていると考える方が自然でしょう。
仮に飛信隊が全滅したとしても、その頃には別方面の秦軍が到着し、今度は李牧軍自身が邯鄲城際まで押し返され、逆包囲される可能性すらあります。
つまり今回の戦いは、「飛信隊が助かるか」だけではなく、「李牧さんが飛信隊撃破に、どこまでリスクを背負えるか」という戦いにもなっているのです。
戦術レベルでは李牧さんが圧倒していますが、戦略レベルでは決して安全圏にいるわけではない。
この点は、今後の展開を読む上でも非常に重要なポイントになりそうです。
【考察②】結局、飛信隊の主要キャラは誰も死んでいない件
今回、惇兄弟の兄・角が戦死しました。
……ごめん、惇角。
正直に言います。
「え?誰だっけ?」
と思った読者も、かなり多いのではないでしょうか。
もちろん、劇中では弟との絆が描かれ、良い最期ではありました。
しかし、読者目線で見ると、「飛信隊に大打撃」というほどの衝撃ではありません。
というのも、今回の包囲戦で、本当に死んでは困る飛信隊のネームドキャラクターは、結局、一人も退場していないのです。
信。
羌瘣。
河了貂。
羌礼。
昂。
さらには古参幹部クラスも健在。
飛信隊の運営や今後の物語に直接影響するレベルのキャラクターは、現時点では誰一人欠けていません。
もちろん、名無し兵たちは大量に討たれています。
しかし、キングダムという作品において、兵士の数は割と後から何とでもなります。
「いつの間にか補充されている。」
「いつの間にか一万人隊になっている。」
そんなことは、これまで何度もありました。
言ってしまえば、モブ兵は消耗品。
冷たい言い方ですが、キングダムではそういう扱いになりがちです。
だからこそ、今回の「飛信隊壊滅」という演出も、読者としては少し冷静に見てしまいます。
「いや、主要メンバー全員生きてるじゃん。」
となってしまうわけです。
そして毎回思うのですが、この作品の兵力設定、本当に自由自在です。
減ったと思えば、いつの間にか増えている。
どこから集めたのか分からない兵が普通に編成されている。
まるでエヴァンゲリオンのキャラクター身長設定のように、「あえて細かく決めないことで、どんな演出にも対応できる」という原先生ならではのスタイルです。
物語としては非常に面白い。
しかし、戦争漫画として見ると、
「兵力、自由自在かい!」
と思わずツッコミを入れたくなるのも、また毎度おなじみのキングダムなのでした。
【次回予想】ついに昂クン登場か?
今回、一つ気になった場面がありました。
羌礼が、
「最後は隊長や昂のところにいたい。」
そう言って昂クンの元へ向かおうとした瞬間でした。
李信はそれを止めます。
「行くな、礼。」
「お前の力はまだここに必要だ。」
結果として、昂クンのいる場所は最後まで描かれませんでした。
つまり、「昂クンのところへ行く」というイベント自体が、一度保留になった形です。
逆に言えば、これはかなり分かりやすい伏線ではないでしょうか。
作者がわざわざ昂クンの名前を出しながら、その姿を見せなかった。
となれば、次回以降に登場するための布石と考えるのが自然です。
では、その間に昂クンは何をしているのか。
この戦場最大の謎と言ってもいいでしょう。
飛信隊は壊滅寸前。
楽華軍も命懸けで突撃。
戦場全体が混乱する中、唯一動向が描かれていないのが昂クンです。
まさか、このまま何もせず終わるとは思えません。
果たして昂クンは、飛信隊を救う最後の切り札となるのでしょうか。
そのあたりの詳しい予想は、土曜日公開予定の「第881話予想編」でじっくり考察したいと思いますので、ぜひ楽しみにお待ちください。
先に、小出しすると、既に城に潜入している可能性が極めて高いですね。
趙王&カクカイに圧倒的な“雄”を見せつけ、即時降伏。
趙王&カクカイ「李牧、降参だ。早く城に入れ。昂先輩と一緒に変態プレイするぞ!!」
李牧「…はい??」
感想
今回はタイトル通り「戦友」という言葉が全てだった回でした。
飛信隊も羌瘣隊も既に限界。
楽華も決して余力はありません。
それでも蒙恬は合理性だけでは動きませんでした。
勝算が薄いことを理解した上で、それでも戦友を見捨てない。
これまで積み上げてきた信と蒙恬の関係性だからこそ成立する展開だったと思います。
一方で、李牧さん側も決して油断しているわけではありません。
楽華軍の策を即座に見抜き、琉安も冷静に対応しています。
つまり知略戦としても、お互いが最高レベルの読み合いを続けている状況です。
果たして蒙恬の打ち込んだ「楔」は、本当に飛信隊へ脱出口を作ることができるのでしょうか。
次回はいよいよ、この包囲網が崩れるのか、それともなお李牧さんの罠が待っているのか。
第881話も非常に楽しみです。